長年なぜこの業界の人たちが、講演を引き受けたり、原稿を書くのかが、私には謎でした。弊社に限らず、対価として得られる報酬は、かかる時間を考えると、ほんの微々たるものです*1。執筆業や講演業だけで食べていける人は、ごく一部。お金の事を考えたら、全く割に合わない作業だと思います。また、本人の思惑とは全く関係なく、世に出した後、世の中とのつきあい方が変化を生じる事になる場合もあります。残酷なもので、記事を書いたり講演を引き受け、業界内のスター扱いをされたことをきっかけに、その後人生の方向を見誤ってしまった人を、私は何人も見てきました*2。仕事の立場で言うと、「誰にでもその人しか言えない言葉を持っている。それを、世に発表して、知のシェアをすれば、世の中が良くなるに違いない」と信じています。でも、なぜ引き受けてくれるんだろうか、そして、こっちにひっぱっちゃていいのだろうか、と、思うこともないわけではありませんでした。名声欲や金銭欲からでは、納得できなかった。心許せる友人達に「なんで?」とたまに聞いてみたりしました。それぞれ語っては頂いたものの、腑に落ちない自分が居ました。
うちの会社がもう一段上のオペレーションができる会社になるために、何が必要なんだろうかと考えていたところ、それは別々に動いているシステムを統合し、現場でできる判断を増やす事なのではないかと、まるでコンピュータメディアの事例記事みたいな事を思いつき、この3連休にどういうシステムを作ればいいか、妄想することにしました。そこで、尊敬してやまないシステムインテグレータの梅田社長が、汎用的ERPパッページから会社の流れを学ぶ本を書いていた事を思い出し、ビックカメラで買いもとめました*3。読み始めてびっくり!当時在籍していた住商コンピュータサービス(現:住商情報システム)で梅田さんは、お客様から「業務のわかるメンバーが居ない」と言われ、自分たちでERPを作ってしまえば、否が応でも業務知識はつくだろうと思い立ち、国産初のERPパッケージ「ProActive」を作ったと書いてあったのです。梅田さんが住商時代に「ProActive」、今ご自身が社長をしているシステムインテグレータで「GRANDIT」*4を作られた事は知っていましたが、まさかそんな理由だったとは、全く存じ上げませんでした。本には、「自社製品を持つ」ということが第1目標ではあったのですが、ERPを作った本人達のみならず、出来上がったERPを販売する営業やカスタマイズする技術者も、業務知識がついていったと書いてありました。
そういえば、梅田さんは、データベース関連の本もたくさん書かれているのですが、データベースの知識をもっと自分につけるために、原稿を書いたと言っていた事を思い出しました。勉強を続けるために、雑誌に連載を持ち、それをまとめて本にする。連載だと、一定のリズムで締切が来るので、生活の中に組み込みやすいし、編集者という伴奏者を得る事で、他者の視点も入り、プロジェクトの管理をお願いできる。読者からのフィードバックも得られる。そして、いきなり書籍を1冊書くのは、山が大きく思うけど、連載であれば、小さい山や丘を毎回乗り越えるという感じ、とおっしゃっていたことを思い出しました。
一方で、弾さんのブログを読んで興味を持ち、「いつも仕事に追われている上司のための 部下を動かす教え方」も平行して読んでいました。この本には、教える事は「知識の棚卸作業」、教える事で一番学べるのは、教える自分自身だと書いてあるではありませんか?!たしかに、自分の経験を振り返ると、人に伝えるために、自分がうねうね考え、わかりやすいと思われる方法に整理することで、自分自身の理解が深まる事はあったかも。この本は、それ以外にも今の自分の悩みに答えてくれて、すごくためになりました。
そんなわけで、教える事は学ぶ事であることを、二つの本から学びました。もちろん、講演や執筆を引き受ける理由は、人それぞれいろいろあるでしょう。でも、この学びのおかげで、昔年のもやもやが晴れました。私は人に講演をお願いしたり、記事をお願いする事に、引け目を感じているところが若干あったのですが、これで心置きなく依頼する事ができそうです。