江青日誌

夢は野山を駆け巡る

高田喜佐さんの「素足が好き」を読んで

素足が好き (ちくま文庫)着物の時間 (Magazine House mook)
マガジンハウス刊の「着物の時間」の中に81人の文化人、芸能界の着物好きが、自分の着物を着て写真に納まっています。この中で、この人のように着たい!まねたい!と思う人が、高田喜佐さんでした。白髪まじりの豊かな髪をきりりとまとめ、いつも楽しげなことを考えているような笑顔で、とびっきりものの良さそうな普段着の着物を、着こなしていました。また、彼女が私の大好きな葉山にセカンドハウスを持ち、晩年過ごしていた事を「Arne」で知りました。病気になられたお母様と海の見えるところで住もうと思っていた矢先に、お母様が亡くなられ、その後、望んでいた家を手に入れられたとの事。海から2件目の古い木造の家で、彼女が、葉山の暮らしを楽しんでいる様が紙面から伝わってきました。そんな家を手に入れた彼女が、本当にうらやましかった。そんなわけで、私にとって、高田喜佐さんは、詩人の高田敏子の娘でも、超有名靴ブランドKISSAのデザイナー兼社長でもなく、着物のバーチャルお師匠さんないしは、女性が美しく歳を取っていくをライフスタイルお手本として、遠巻きにあこがれを持って見ていました。つまり、私の中のグラビアアイドルだったのです。
せっかくなので著作物も読んでみようと思い、買い求めたのが「素足が好き」というエッセィ集。全然表面的な事しか知らなかった彼女が、ずっと見直になりました。お酒が好き、素足が好き、夏が好き、海が好き、ファッションへのこだわり、母と娘としての会話、着物の事、着物を巡る母との会話、仕事を縮小する決断、ショーが終わった後の風景、靴のデザイナーとして勝負してきた思い、、、などなど、私の母とほぼ同じ世代なはずなのに、失礼ながら自分の身近な、まるで会ったことがない姉にあったような気持ちで、ページをめくりました。写真から伝わってくる、何か楽しい事を考えている笑顔の下にあった、彼女の深い思いを読んで、もっと早く、彼女を知りたかったとすごく思いました。
一番共感したのは、以下の文章です。ちょっと長くなるけど引用します

「私のゆ`め`」
最近、家庭を持ち、仕事を続けている素敵な女性によく出会う。子供がいる方もいて、本当に偉いなあと感心してしまう。
そして、その生き生きとした姿に見とれながら、私のように仕事だけというのは、少しも格好良くないと思うのだ。一つのことしかできない不器用な自分は、古いパターンなのではないだろうか。今の時代は、仕事も家庭も両立させ、爽やかに生きる女の姿が似合っている。
私はずっと仕事だけをしているが、私の中に古いところがあり、女が仕事を持つ事に後ろめたさのようなものを感じている。女の人は家庭を守るのが相応しく、男の人の仕事を陰で支えるのが、素敵な有りようではないかと思い続けている。
(中略)
子供を育て、食事の支度をし、家をきちんとし、お客様を気持ち良く迎え、お世話になった方にお礼状をしたためる。主人が快適に暮らすための普通の生活。そんな場所に身を置く、ごく当たり前の女性の生き方を、私は素晴らしいと思っている。
現実とはほど遠い、わたしのゆ`め`

この文章を書いた時、彼女は50歳。2007年2月に64歳で亡くなるまで独身を通しました。読んで講演依頼を断る決心がつきました(苦笑。女性の離職率が高いので、女性が働き続ける事をテーマに、セミナーに出て話をしてくれないかと、講演依頼を頂いていたんですが、どうしてもストーリーがまとまらず、答えを保留にしていました*1。こんな私に声をかけていただいたのは光栄なんですが、そのテーマだったら私なんかではなく、他にも良い方はたくさんいるという思いと、人様の会社の方に「働き続けると良い事があるよ」、なんてことを言うのは、無責任すぎて私には言い切れないなあと思っていました。特に、子供を持ちたいと思っている人からすれば、時期があるわけで、その時期は、仕事よりも家庭を大事にしてほしいという思いが私にはあります。某有名企業に勤めている子育ての終わった女性が、「子育て中は仕事が思いっきりできなくて周りがうらやましかったから、子供が手が離れた今、私は思いっきり働いているのよ」と言った言葉が忘れられません。そんなわけで、高田喜佐さんのこの文章を読んで踏ん切りがつきました。背中を押してもらった気分です!
残念な事に、彼女が私のグラビアアイドルになったのは、亡くなる数年前でした。経営者としての彼女の姿も知りたかった。もっと、早い時期に知っていれば、もっと、わくわくさせてもらえかもしれないなあと思うと残念です。一方で、彼女達の世代が結果を出した事で、私たちの世代の女性達が、普通に働けるようになったと思います。彼女に出会えた喜びと感謝の気持ちを込めて、彼女の靴をとりあえずこの夏に1足買ってみようかなあと思いました。偶然にも彼女がKISSAを立ち上げたのは、私が生まれた年。彼女の笑顔のような、キュートでかわいいズックを手に入れるぞー!*2

*1:今年は出稽古年間なので、依頼された講演は受けるべしなのですが

*2:KISSAの靴は、http://www.moonstar.co.jp/kissa/index.htmlで見る事ができます